チョコレートの主な成分はココアバターであり、そのココアバターに含まれるトリアシルグリセロール(CB TAG)という成分の結晶構造が、チョコレートの品質と深く関係している。CB TAGの結晶化はかなり複雑で、少なくとも6種類の構造を取りうるのだが、そのうちのⅤ型と呼ばれる結晶がチョコレートとして最も好まれる性質を持っているのだという。そこで、チョコレートの製造過程では、冷やし固める際にこのⅤ型結晶だけが生成されるように、温度をどのように変化させるか、どのくらい撹拌させるかといったことを調整している。この工程はテンパリングと呼ばれている。

さて、この結晶構造なのだが、ココアバターに含まれている微量の脂質成分によって影響を受けることが知られている。そこで、本研究ではホスファチジルコリンとホスファチジルテアノラミン、という成分が結晶構造にどう影響するかを調べたものである。その結果これらの脂質成分があるとⅤ型の結晶が生じやすいことがわかった。

各条件での結晶の顕微鏡画像。a) 普通のカカオバター b) 生成したカカオバター c,d) 微量成分を添加したカカオバター

さらにこれらの微量成分を添加したものは、ただ冷やし固めるだけで、市販のチョコレートに近い高品質のものができることがわかった。

市販のチョコレートを溶かしてから冷やし固めたものの内部構造の比較。a,b)微量成分添加したもの c) 溶かす前のもの d) 溶かしてそのまま冷やし固めたもの。dに比べると、a,bは溶かす前のもの(c)に近い構造を保っている。

以上のことから、この微量成分を使うことで、従来の複雑なテンパリング過程を使わずにチョコレートを作ることが可能であり、より効率的な製造が可能となるかもしれない。

Chen, J., Ghazani, S.M., Stobbs, J.A. et al. Tempering of cocoa butter and chocolate using minor lipidic components. Nat Commun 12, 5018 (2021). https://doi.org/10.1038/s41467-021-25206-1