細胞内で物質を合成することを生合成(biosynthesis)という。これを細胞外でおこなおうというのが本研究の目的である。そのためには細胞の抽出物を使うのだが、抽出物をただ用いるだけでは調整できる部分が少ないため、効率的に合成するシステムを作ることが難しい。

そこで本研究では、生合成が起こりやすい環境(pHや初期の物質濃度など)を整えるだけでなく、抽出する前の細胞にあらかじめ操作をおこなっておくことで、抽出物についてもさらなる生合成の促進を可能としている。

ここでは酵母由来の抽出物を用いて、BDOという物質を生合成させている。本来はグルコースからエタノールを生合成する酵母であるが、ある品種はグルコースからBDOを生成することができる。これにさらにCRISPRというものを用いて化学反応に介入できる。具体的にはエタノールへと向かう反応を抑制し、BDOへの反応を促進させる。これにより抽出物での生合成でもよりBDOを生成できることを確認した。

a) 酵母の抽出物をつかって生合成を細胞外でおこなう手順。 b,c )本研究でターゲットとしている反応。もともとの酵母はグルコースからエタノールを生成するが、BDOという物質を生成する品種も存在する。本研究はさらにCRISPRを用いて反応経路に介入することで、よりBDOをつくるようにしている。

Rasor, B.J., Yi, X., Brown, H. et al. An integrated in vivo/in vitro framework to enhance cell-free biosynthesis with metabolically rewired yeast extracts. Nat Commun 12, 5139 (2021). https://doi.org/10.1038/s41467-021-25233-y